幕末の蘭学者で画家の渡辺崋山(かざん)(1793~1841)が、いまの神奈川県厚木市を旅して描いた「厚木六勝」が、あつぎ郷土博物館で特別展示されている。大正期ごろの白黒写真しか残っていなかったため、長年「幻の厚木六勝」とされていたが、2017年に偶然、米・ハーバード美術館で見つかり、カラー作品だったことも確認された。展示は原寸大の複製で、作品の色使いも楽しめる。
展覧会は「優しい旅びと・渡辺崋山展」。崋山は三河(愛知県)の田原藩士で、1831(天保2)年9月、藩の家譜編纂(へんさん)のために江戸から現在の神奈川県綾瀬市などを訪れた後、宿場町の厚木にも足を伸ばして2泊し、文化人らと交流した。
その一人、書家の斎藤鐘輔に請われて、6カ所の景勝地を描いた6枚の絵が、「厚木六勝」(いずれも縦19センチ、横34・8センチ)だ。大山(おおやま)や相模川、神社などが描かれており、旅の様子は崋山の紀行文「游相(ゆうそう)日記」(原本は関東大震災で焼失)で知ることができる。
厚木六勝では大山が雪をかぶっているほか、花が咲いた情景や青々とした水田、稲刈り後とみられる田なども描かれていて、6枚で厚木の四季を表現したのではないかという。学芸員の山岡裕子さんは「崋山の絵はどこで描かれたのか分からない作品も多いが、厚木六勝は、いつ、どこで描かれたかがはっきりしていて貴重」と評価する。
特別展示は、游相日記の複製や、愛知県田原市博物館から借りた崋山の作品などを含めて約40点。11月8日まで(10月26日は休館)、入館無料。問い合わせは、あつぎ郷土博物館(046・225・2515)へ。(豊平森)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル